キリムについて

遊牧民が織る平織りの敷物「キリム」について、さまざまな側面からご紹介しています。

キリムのモチーフ

キリムには様々なモチーフが用いられており、それらには織り手の思いや願いが込められています。ここではそれらのモチーフの用語とそのモチーフが象徴するものを説明します。一番初めの括弧のなかには英語表記を、二番目にはトルコ語表記を添えています。

イーブルアイ (evil eye) (Nazar)

トルコ語でナザルと呼んでいるイーブルアイとは、人々の生活に災難をもたらすと信じられている邪視のこと。嫉妬や羨望といった負の感情から生まれた力が両目から放たれて、人や物に悪影響を及ぼすと信じられています。
このイーブルアイのモチーフは、その悪影響を及ぼすと考えられる視線に対抗して、魔よけの意味で使われることが多いです。

イヤリング (earrings) (küpe)

女性のイヤリングを形取ったモチーフ。
アナトリアでは、イヤリングは、結婚式のギフトとして使われることから、結婚への夢を表しています。特に結婚を控えた若い娘たちが、自身の嫁入り道具として織るキリムや絨毯に見られるモチーフです。

陰陽 (love and union) (Aşk ve birleşim)

陰陽、インヤン。
はるか東方より伝わる陰と陽の二元論の思想。男女のつながり、調和の意味に用いられます。

狼の口、狼の足跡のモチーフ (wolf’s mouth, wolf’s track) (kurt ağzı Kurt izi)

キリムでは、このモチーフは、家庭や家族を狼から守るために用いられます。もともと遊牧生活、半遊牧生活を送っていた民族にとって、狼はつねに脅威であったのです。

S字のフック (hook) (çengel)

邪視から守る意味合いで用いられるS字の形をしたモチーフ。また邪視からの保護という意味だけでなく、特に男女間の結びつきや関わりを象徴するモチーフでもあります。

エリベリンデ (hands on hips) (Elibelinde)

母神が腰に手を当てている姿を形取ったモチーフ。
すべての母性の象徴であるとともに、豊穣への祈り、喜び、幸運、楽しさ、めぐりあわせといった意味も含まれています。時に象徴的に、時にとても写実的とも思える姿で、繰り返し登場するポピュラーなモチーフです。

櫛 (Comb) (tarak)

櫛のモチーフは、歯が3個、5個、7個のものがあり、邪悪なものから身を守るといわれ、お守りとしての意味があります。
またこのモチーフは、形が指に似ていることから指のモチーフとも言われています。これらのモチーフは、櫛や手を模しているだけでなく、キリムや絨毯を織る際に使われる、織り目を下に押し付けるための道具を模したものともいわれています。

サソリ (Scorpion) (Akrep)

命を守るという意味合いでもちられるモチーフ。
サソリはアナトリアでは恐れられた存在でしたが、これに対する警戒から、サソリのモチーフを織りこんでいました。また災いをもたらすと考えられる邪視などからのお守りとしても、このモチーフは使われます。さらにサソリは、空のドラゴンの仮身と考えらており、雨を降らせるとも考えられています。

生命の木 (tree of life) (Hayat Ağacı)

ひとつの幹から枝葉がわかれ大きく広がっていく様子を描いた生命の樹。脈々と続く命、子孫の反映をイメージしたイスラム思想に基づいた美しいモチーフです。
アナトリア(トルコ)キリムでは、三角の屋根の形をしたミフラープデザインとともに用いられることも多く、お祈り用のキリムのもっとも典型的なパターンになっています。

フェター (つなぎ輪) (Bukağı)

牧草地から遠くに行かないように、馬の両前足にとめる、鎖で出来たフェター(つなぎ輪・トルコ語で「ブカウ(Bukağı)」)を表したモチーフ。
二つの三角を紐で結ぶような形です。家族や親戚、男女間の結束、家系の継続や幸福、愛する人と一緒にいることへの望みが込められています。

手 (hand) (el)

人間を他の動物から区別する重要な器官である手は、人間の創造力を象徴しています。
またアナトリア世界では、手と5の数は、幸運をもたらすものと信じられています。
また預言者ムハンマドの娘であるファトマの手は、アナトリアの女性の中で、家庭の繁栄を象徴し、病気を遠ざけたり、夫婦の結びつきを助けるもののとして考えられています。

花嫁の髪飾り (Hair band) (Saçbağı)

花嫁の髪飾りのモチーフは、結婚への夢を表現したもの。
嫁入り道具として持参するキリムには必ず用いられる愛らしいモチーフ。

羊の角 (ram’s horn) (Koçboyunuzu)

雄羊の角を形取ったトルコ語でコチボユヌズと呼ばれるモチーフ。
ヒーロイズム、強さ、男らしさの象徴として使われます。アナトリアでは、男らしさの意味のなかには、男性の持つ生産的な役割も含まれており、コチボユヌズのモチーフは、この男性の生産性も象徴しています。
角を形取ったこのモチーフは、織り手によって、コチボユヌズだけでなく、「ボユヌズ・ヤヌシュ(Boyunuz yanış)」「コチュル・ヤヌシュ(koçlu yanış)」「ギョズル・コチ(gözlu koç)」などと様々な名前で呼ばれています。
バリエーションが豊富で、キリムではもっとも多様されるモチーフです。

ベレケット (fertility) (Bereket)

桑の実、スイカ、メロン、ザクロ、イチジク、小麦、大麦の穂、ケシの実といった植物と、蛇、ドラゴン、羊、牛、アカシカ、蝶、魚、ナナホシテントウ虫といった動物・昆虫をそれぞれ異なった形で表現している一連のモチーフ。キリムでは、一般的には、エリベリンデやコチボユヌズといったモチーフと一緒に使われるときに、結婚、交配、繁殖といった男女の営みに関連する意味を持ちます。
このベレケットのモチーフは、永遠に続く幸福への望みを込めて使われます。

星 (Star) (yıldız)

六角形の星は、ソロモンの星に由来するモチーフ。幸福や豊饒を表し、また母神の象徴でもあります。
この星のモチーフはアナトリアでは八角形、十角形にアレンジされて登場することも。

ドラゴン (Doragon) (ejderha)

一般的に、羽、ライオンの爪、蛇の尻尾を持つと考えられているドラゴンは、財産や秘宝を守るものと考えられています。
また中央アジア、シュメール、ヒッタイト、ペルシャ、ローマ、ビザインツ、イスラム、セルチュック、オスマン文化など多くの文化のなかで、ドラゴンのモチーフは、不死を表すもの、番人、保護する者、珍しい者、癒しをもたらすものとして使われています。
中央アジアのトルコ人のなかでは、ドラゴンは天候や雨を司るとされ、ドラゴンとフェリックスの戦いによって、春雨が降ると考えらえています。

水の道 (Runnning water) (Su yol)

水は、肉体的・精神的な再生、人生の時の流れなどを象徴するとともに、豊かさ、家柄の良さ、学識、純粋さ、美徳なども象徴します。
キリムのなかで、水の道は、曲がりくねった川のように考えられ、曲がりくねっていても、またもとの道に戻り、流れ続ける川の流れを表しています。

ミフラープ (Mihrab) (Mihrap)

本来は、モスクにあるアーチ上のくぼみのこと。
メッカの方向を指し示すものとして、礼拝用のキリムに多く用いられました。

目 (eye) (göz)

「見る」という機能を持った器官である目は、知性を象徴しています。
また人の目は、良い目的で見ることもあれば、嫉妬などの悪い意味を持つ場合もあり、この邪視がもたらす災いを、同じ目のモチーフを持って制するという意味もあります。この邪視からのお守りとして、目のモチーフは、コチボユヌズやエリベリンデ、ベレケットモチーフの周囲やその中によく見られるモチーフです。

嫁入りたんす (chest) (sandık)

嫁入りたんすと呼ばれるモチーフ。結婚への願望、子供が欲しいといった思いを象徴します。
嫁入りダンスには、女の子が生まれてから結婚するまでに用意された嫁入り道具が詰められます。娘たちやその近しい人たちは、嫁入り道具として織るキリムに、この嫁入りダンスのモチーフを織り込むことで、幸せな結婚への願望を込めています。
一般的に、嫁入りたんすのモチーフが、結婚への希望や子供をたくさん欲しいとの思いを象徴する一方で、一部の地域では、このモチーフを死や棺を象徴するものとしている場合もあります。
また四角のモチーフであることから、その四角形が象徴する、南北西東、大地や空、さらには宇宙という意味合いを持つ場合もあります。

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